羽賀研二氏による詐欺事件の損害賠償請求(H31.1.21更新)

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何があった?

元タレントの羽賀研二氏は、知り合いに、ある会社の株を買わないか?と言い、知り合いは、株の代金などの約3億9,000万円を、羽賀研二氏に払いました。

しかし、実際には、その会社は倒産しかけており、株には何の価値もありませんでした。

羽賀研二氏は、お金をだまし取るために、株には価値がないことを知っていて、知り合いに株を売った、ということで、詐欺の罪で逮捕され、刑事裁判で罪が決定し、刑務所に入りました。

だまされた知り合いは、お金を返してくれと民事裁判を起こし、裁判の結果、
「だましとったお金を、全部返しなさい」と決定しました。

(ここから、羽賀研二氏のことは「H」と書きます。)

今、ニュースになっているのは?

この事件が起こったのは、18年ぐらい前の話です。
民事裁判が決定したのも、2年ぐらい前の話です。

そんな古い事件が、なぜ今、ニュースになっているのか?

それは、民事裁判で「だましとったお金を、全部返しなさい」と決定したのに、まだ返していない、というところです。

しかも、お金を返したくないために、Hは、妻と離婚して、Hが持っていた不動産を、全部妻のものにしたんじゃないか?
という疑いが出てきたそうです。

① 裁判で決定したお金って、すぐ払ってもらえないの?

払ってもらうのは、とても難しいです。

お金を払わなければいけないのは、払いなさいと言われた人だけであり、国や、担当した弁護士が払ってくれたりはしません。

払いなさいと言われた人が、イヤだ!と言えば、払ってもらえません。
その人の家やサイフから、むしり取っていくわけにもいきません。
気持ちはわかりますが、それをしたら逆に、ドロボウの罪になります

払いなさいと言われた人が、「払いたいけど、お金がないんだ」と言えば、代わりに払ってくれる人は、いません。

② お金をはらってもらうためには?

え!? イヤだと言ったら、払わなくていいの?

いいえ。払わなくていいのではありません。
勝手にとか、ムリヤリ取っていくのはダメだということです。
勝手に、ムリヤリ、でなければよいのです。

そのために「差押(さしおさえ)」という方法があります。
財産(現金、銀行の預金、車、不動産など、価値のあるもの)に差押をすれば、その財産を、勝手にムリヤリ取って行っても、ドロボウにはなりません。

もし、差押された財産が売られたりして、事件のことを知らない人のものになっても、その人から勝手にムリヤリ取っていくことができます。
(だから、そんな財産は、誰も買いません。)

このように、差押は、とても便利な方法ですが、ドロボウがドロボウじゃなくなる、という、とんでもない方法ですので、必ず裁判所で手続しなければいけません。
「差押した!」と言えば、それでいいのではありませんよ。

③ 財産がなかったら?

はっきり言って、どうしようもありません。

払わなくてよくなるわけではありませんので、長年にわたって、少しずつ返してもらうしかないでしょう。

払わなければならない人の、親・妻・子どもなどが、代わりに払ってくれよ、と言いたいかもしれませんが、この人たちは、法律上は関係ない人たちです。

「オマエは家族だろ!」などと言ってお金を取っていくと、それはカツアゲです。

④ Hには、財産があった? なかった?

前置きが長くなって、すいません。
やっと、この事件の本題です。

最近になって、Hは不動差をたくさん持っていることがわかりました。
そこで、詐欺事件の被害者は、差押をしようとしたところ、不動産は全部、離婚した妻のものに変わっていました。

つまり、Hには財産がないので、お金を返してもらえない、ということです。

ちょっと待って。

財産を持っていたのに、別の人にあげました。
だから、財産はなくなりました。お金は返せません。

こんなことが許されるのでしょうか?

⑤ どうやって財産を渡したのか?

もちろん、許されません。

財産を売ったなら、売ったお金を持っているはずです。
タダであげました、なんてダメです。お金を返すのが先です。

しかし、今回は「財産分与(ざいさんぶんよ)」です。
財産分与とは、夫婦が離婚するときに、夫と妻で、お金を分けることです。
半分半分でもよいのですが、そうとは限りません。

浮気をした、暴力をふるった、など、どちらかが悪いことをしたせいで離婚をしたときは、慰謝料を請求できるので、財産は全部夫のもの、全部妻のもの、ということもあります。

Hがなぜ離婚したのか? を報道したニュースを見たことはありませんが、
「Hの犯罪が原因で、家庭がグチャグチャになって、離婚した。」
ということは、大いに考えられます。

そうだとしたら、妻はHに慰謝料を請求し、お金の代わりに不動産をもらった、ということは、あり得ます。

なお、「財産分与」という言葉は、法律では、離婚のときだけに使います。
「親子で財産分与」「兄弟で財産分与」と言って、お金を分けることがあるかもしれませんが、法律的には、それは贈与です。
贈与税がかかるので、注意しましょう。

⑥ 本当に財産分与? 証拠は?

問題は、「本当に財産分与だったのか?」です。

ニュースによれば、民事裁判で「お金を返しなさい」と決まってすぐ、離婚をして、財産分与をして、不動産を妻のものにしたそうです。

いや、早すぎない? タイミング良すぎない?
Hがお金を払いたくないから、不動産を妻のものにして、Hは財産がないってことに、ムリヤリしたんじゃないの?
実はウラでHにお金を渡すんじゃないの?

ここで皆さんが考えるのは、「財産分与の証拠は?」ではないでしょうか?
「財産分与したなら、その内容を書いた文書が残っているはず!」
と思った、財産分与に詳しい人はいませんか?
(こんなことに、詳しくない方がいいですよ。)


残念ながら、財産分与は、口約束でもOKです。
文書にしている人もたくさんいますが、それは、約束を忘れないように(忘れさせないように)するためです。
文書にしなければいけない、という決まりはありません。

Hと妻が、「話し合って決めました。文書にはしてません。」
と言えば、それまでです。
話し合った、という証拠もないので、疑いは晴れませんが、ウソだと決めつけることも、できません。

⑦ 裁判の決定は離婚の前だから、決定のときに、差押はできないのか?

ちょっと難しい話ですが、あるテレビのコメンテーターが、こんなことを言っていました。

「裁判で『お金を返しなさい』と決まったときには、まだ離婚をしてないんでしょ?
つまり、裁判のときには、Hには財産があったんでしょ?
『返しなさい』と『財産分与』は、『返しなさい』が先なんだから、返してもらうのが優先にできないの?」

なかなか、するどい意見です。

しかも、付け加えれば、『返しなさい』の日は、実は、裁判の決定より、もっとずっと前、詐欺の被害にあった日です。

ちょっとわかりにくいので、交通事故の損害賠償を例にします。

損害賠償しなければいけない日とは、実は、事故の直後です。
ただ、

「ドーン!ぶつかった!」「どちらが悪い」「お金は○○円」「はい、お金どうぞ」
を、その場で一瞬でできるわけがないので、決定まで時間がかかるだけで、「ごめんなさい!」の日が変わるわけではありません。

だから、事故の1年後に「○○円払いなさい」と決定して、決定した日に○○円払ったとしても、これプラス1年分の利息も払わなければいけません。

話がそれてしまいましたが、つまり、Hがお金を返さなければいけない日は、離婚より裁判より、もっとずっとず~っと前です。

じゃあ絶対、お金を返す方が優先だよね・・・?

⑧ 登記は早いもの勝ち

ここで、司法書士の専門の話になります。

不動産はだれのもの? どんなもの? を記録しているのが登記です。

妻が財産分与により不動産を手に入れたことは、「だれのもの?」の内容なので、登記することができます。

差押も「どんなもの?」の内容に入るので、登記することができます。

そして、2つ以上の権利が、1つの不動産を取り合った場合は、先に登記した権利が優先されます。

この事件では、「Hの財産を差し押さえる」という権利と、「財産分与で妻が財産をもらう」という権利が、不動産の取り合いになりました。

そして、Hの財産を差し押さえる権利は、財産分与の権利より、ずっと早く発生しました。

それでも、差押の登記より先に、財産分与の登記をすると、先に登記された財産分与の権利が優先されるのです。

つまり、後から差押の登記をしたくても、不動産は妻のものになっているので、Hの財産ではないものに差押はできない、となります。


なんてひどい決まりなんだ! と思われるかもしれません。
これは、不動産が、とても高価な財産であることに、理由があります。

⑨ 登記は早い者勝ち、の理由

この事件では、早いもの勝ちが、被害者を不幸にしているかもしれません。
しかし、他の例で考えてみてください。

もし、あなたの買った家に、
「その家を売った人から、お金を返してもらう権利があるんだ。
あなたが家を買ったのより前の話だ。
だから、あなたの不動産をもらいます。」
という人が来たら、どうしましょうか?

出て行けますか?
出て行くとしても、当然、売った人に払ったお金を、返してもらいたいです。
でも、家って、何千万円もしますよね?
ポンと返してくれると思いますか?

見えない権利が後から優先されると、結局、誰のものなのか、さっぱりわかりません。
こわくて、何千万円ものお金なんか、払えません。
ということは、不動産の売買なんか、できなくなります。

このようなトラブルがないようにするために、また、安心して不動産のやり取りを行うために、登記があるのです。

だから、「早い者勝ち」という言い方ではなく、
「登記していない=見えない権利は、守れません」
という言い方が、良いかもしれませんね。

⑩ まとめ

この事件は、まとめることができません。
なぜならば、「こうしておけば、よかったのに。」ということが、ないからです。

裁判で決定してすぐ、不動産に差押すればよかったのに、と言えるかもしれませんが、それは結果論です。
それに、今回の事件では、Hが不動産を持っていたことがわかったのが、つい最近だそうですからね。

もし、不動産を持っていることを知っていたとしても、離婚して財産分与の登記をするのより先に、差押の登記をすることは、たぶん無理です。
差押の手続には、それだけ時間がかかります。
(離婚して財産分与の登記をするのは、やろうと思えば、1日でできます。)


今回の「さいきのワイドショー」は、結論がない、モヤモヤした記事になりました。
せめて、みなさんがニュースを見て、「なんでだろう?」と思ったことの答えが、ここに書けていればいいなぁ。

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