貴乃花親方は、相撲協会を引退できないのか?

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貴乃花親方は、正式な書類を出さなければ、引退できないのか?

(このページは、「さいきのワイドショー」のコーナーです。)
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平成の大横綱として、私の世代では人気ナンバー1の貴乃花さんですが、なんか、いろいろあって、もうイヤなんだそうです。


そこで、貴乃花さんが、相撲協会に「引退届」を出したところ、
「引退届という名前の書類は、ウチの会社では使っていない。」
「出さなければいけない書類に、ハンコがない。」
ということで、
「貴乃花は、まだ引退していない。」
と、相撲協会は言っています。

「書類の名前」「ハンコがない」
これって、そんなに重大なことなんでしょうか?

① 書類の、正式な名前とは?

そんなもの、ありません。
役所の書類は、名前が法律で決まっているものもありますが、普通の書類の名前は、作った人が勝手に名付けているだけです。

というか、ほとんどの約束は、書類ではなく、口約束でOKです。
(一部、口約束だけではダメなものもあります。)

だって、みなさんが、コンビニで買物するとき、これは、法律的には立派な「売買契約」(「ばいばいけいやく」売ります・買います、を約束すること)ですが、
「この商品を○○円で買います」なんて書類を、出しますか?
また、
「この、○○という商品を、××円で、買います!」
とか、きちんと言いますか?

ほとんどの人は、何も言わずに、レジに商品を持って行くだけでしょう。
それでも、売ります・買いますの約束は、成立します。

なぜならば、買う方は、
「お金を払う場所に、商品を持って行く、ということで、この商品を買いたい!ということが、ハッキリわかる」
売る方は、たとえ、店員さんが、すご~く態度の悪い人でも、
「レジを打ち始めたら、売ります!ということが、ハッキリわかる」
からです。

この、「ハッキリわかる」ことを、法律では「意思表示(いしひょうじ)」と言います。

法律では、「意思表示を行ったら、約束できる」と決まっており、「言ったら」とか「聞いたら」とかは、どこにも書いていません。

なんと、口約束どころか、無言でも、契約成立です。
書類の名前? 書類すら、いらないのですから、名前なんか、もっといりません。

② 書類がなくても、やめられるか?

さて、この話を元に、貴乃花さんに話を戻すと、「引退届」だろうが、「辞職願」だろうが、書類なしに「やめさせてください」と口で言おうが、これ、誰が聞いても「やめたい」ということが、ハッキリわかります。

そして、労働契約(この会社で仕事をします。だから給料をください。という約束)では、会社が「やめさせない」ということは、できません。

ニュースなどで、
「だれかが辞任届を出して、えらい人たちで話し合った結果、辞任を承認した」
とか、よく聞きますが、そもそも、やめるということは、話し合って決めることでも、認めてもらうことでもありません。

つまり、貴乃花さんは、引退届を出したとき、もう、やめています。
(「やめられる」ではなく、「やめている」です。)

③ では、「書類を出せ」と言われるのは、法律違反か?

法律違反ではありません。
約束は、自分と相手が納得していれば、法律とはちがう約束をしても、自由なのです。

もし、貴乃花さんと相撲協会が、労働契約をしたときに、
「やめるときは、書類を出すこと」
と約束していれば、
「やめる、という意思表示はしたから、書類は必要ない!」
ということは、できません。

どんな約束をしても自由、と言っても、たとえば、

「やめるときは、おしりを100回叩く」とか
「やめて、ごめんなさい、の代金を払う」とかいう、
常識はずれや、別の法律に違反する約束は、ダメです。
(常識はずれのことを、法律では「公序良俗に反する(こうじょ りょうぞく に はんする」と言います)

しかし、書類を1枚書く、という約束は、今の世の中では普通のことですから、守らなければいけません。

法律には「信義則(しんぎそく)」という、「お互いに信頼し、信頼されるように、約束を守りましょう」という決まりもあり、もし、貴乃花さんが「そんな約束、知らね~よ」と言えば、今度は、貴乃花さんの方が、法律違反となる可能性があります。


④ 書類を出す約束はしたが、ハンコを押せとは、言われていない。

そもそも、ハンコって、何のために、押すのでしょうか?

それは、書類をもらった人が、書類を出した人に、後から
「この書類に書いてある、私の名前は、私は書いてない!
誰かが、私の名前を、勝手に書いたんだ!」
と、言われないようにするためです。

書くことは誰でもできますが、あなたのハンコは、あなたしか持ってないでしょ?
だから、あなたが書いた証拠なんですよ、ということです
(同じ名前の人は、他にもいる!とか、ハンコは100円ショップに売っている!とか言う話は、ちょっと、おいておきます。)

だから、きちんと記録を残しておくために、書類を保管する人や会社が、お願いとして、ハンコを押してもらっているわけです。

この、ハンコを押す、ということも、日本では常識と言えるでしょう。
だから、「書類を出す」という約束には、「自分の住所と名前を書いて、ハンコを押す」という意味が、含まれていると考えられます。
「ハンコを押す約束なんて、してない!」と言っても、これは、通らないでしょう。

法律的に難しく言えば、

ハンコを押して、と言われることは、「公序良俗に反しておらず」、
ハンコを押すのがイヤだ!と言うのは、「労働契約の信義則に反する」
と思います。

⑤ では、やっぱり、書類とハンコがなければ、やめられない?

たぶん、やめられます。

それは、
「○○しなければ、やめさせない!」
ということは、憲法の「職業選択の自由(しょくぎょう せんたく の じゆう)」に、違反するからです。

憲法とは、国民が人間らしく生きる権利を決めており、すべての法律の元となっています。
これまでに、「法律ではナンチャラ」と、いっぱい書きましたが、憲法に違反することは、他のどんな法律や約束で決まっていても、無効(「むこう」約束していないことになる)です。

上に「たぶん、やめられる」と書いたのは、「裁判したら、勝てるんじゃないですか?」ということです。

法律をよ~く考えて、「こうしなさい」と最後に決めるのは、裁判所ですので、どうしても「オレはまちがってない!」と言いたい人は、裁判したらよいのですが・・・

憲法違反かどうか?で、有名な
「自衛隊の活動は、『戦争しない』という憲法の決まりに、違反しているかどうか」
という、とても大切な、難しい問題があります。

この問題と、「貴乃花さんはやめられるか?」という問題を、同じ、憲法違反という、大切な問題と考えるのは、ちょっとムリがあるような・・・。

まとめ

① 約束は、書類ではなくても、できる。
② ハンコがなくても、無効ではない。
③ 相手と約束したことは、法律より大事。
④ 常識はずれの約束は、無効。
⑤ 法律ではガー、と話を突き詰めるのは、何か、ちがうような気もする。
⑥ 仲良くしましょう。

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