貴ノ岩と日馬富士の損害賠償請求訴訟(H30.10.22更新)

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貴ノ岩さんと日馬富士さんのケンカから、法律のお勉強。

別に、私は、相撲ファンではありませんが、みなさんが知っている、話題のニュースとなると、これでしょうか。
 ※H30.10.31追記 裁判するのを、やめたそうです。

なお、このページは、法律のお勉強のページです。
どちらが悪いとか、金額が高すぎる、安すぎる、という、たぶん、みなさんが一番知りたいことを、考えるページではありません。
それは、これから、裁判所が決定するわけですから、裁判が終わるのを、見守りましょう。

ついでに、「貴ノ岩さん」「日馬富士さん」と、書き続けるのも面倒で、私はどちらの味方でもありませんので、ここからは、「タカさん」「ハルさん」と、例えましょう。

何があった?

みなさん、よく知っていると思いますが、一応、書きます。

ある日、ハルさんは、「タカさんの態度が悪い!」と思って、タカさんを殴りました。
タカさんはケガをして、病院で直すことになり、仕事(相撲)もしばらく休むことになり、そして、悪いことをしたつもりはないのに、殴られて、とてもイヤな思いをしました。

そこで、タカさんは、ハルさんに、「私が損をした分の、お金を払ってよ。損をしたのは、2,400万円ぐらいだよ。」と言いました。

ハルさんは、「悪いことをしたのは、あやまるけど、2,400万円は高すぎるだろう。君が損をしたのは、50万円ぐらいだと思うよ。」と言いました。

2,400万円と50万円、えらい違いです。
2人は、何度も話し合いましたが、話がまとまりませんでした。
そこで、「裁判所に決めてもらおう」と、なりました。

① 裁判って、なに?

裁判というと、みなさんが思い浮かぶイメージは、
① 裁判所の人が、「懲役○年とする」と、言うところ
② 裁判所の人が、「○○円を払いなさい」と、言うところ
の2つでは、ないでしょうか。

この2つは、同じ裁判ですが、全然違うものです。

① 刑事裁判(けいじさいばん)
悪いことをした人の、罪(つみ)と罰(ばつ)を決める裁判です。
この裁判では、「○○という法律に違反した(窃盗罪、傷害罪など)から、△△という罰を与える(罰金○円、懲役○年など)」ということが、決まります。

この裁判では「被害者に、○○円払いなさい」ということは、話し合いません。
それは、②の民事裁判で決めることだからです。

刑事裁判は、被害者が何も言わなくても、勝手に行われます。
しかし、被害者が「お金を払ってくれよ」と言いたいなら、加害者にそう言わなければ、誰も、何もしてくれません。

② 民事裁判(みんじさいばん)
2人の言っていることが違うとき、法律から考えて、正しいのはどちらか? を決める裁判です。

どれだけ悪いことをしたか? については、この裁判で話し合われません。
それは、①の刑事裁判で決めることだからです。


だから、民事裁判は、原告(裁判するぞ、と言った人)・被告(裁判でするぞ、と言われた人)の区別はありますが、被害者・加害者の区別は、ありません。

民事裁判の中には、「確認の裁判(かくにんのさいばん)」と言って、「これは、僕の物だよね?」とか、「借りたお金は、全部、もう返したよね?」という、良い・悪いで区別することができない裁判もあります。

② 民事裁判は、良い・悪い、ではない。

裁判の説明を長々としましたが、「そんなこと、知ってるよ」という人が、ほとんどでしょう。
わかってます。私が言いたいのは、裁判の説明ではありません。
民事裁判には、
「被害者・加害者の区別がない」
「良い・悪いで、区別できない」

という部分です。

それらは、刑事裁判で決めることで、民事裁判に持ち込むことでは、ありません。
民事裁判で決めることは「どちらの言っていることが、正しいか」です。
(または、「どちらも正しくないので、こうしなさい」と、裁判所が、別の方法を決めるか)

民事裁判で決まる、タカさんとハルさんの話は、「タカさんが損をしたお金は、いくらか?」ということであり、良い・悪い、被害者・加害者の話では、ありません。

インターネットなどで、「ハルさんは加害者なのに、文句を言うなんて!」という意見を、見聞きします。
気持ちは、よくわかりますが、この意見は、話し合いの内容から、ズレています。
ここは、気持ちをこらえて、冷静に考えましょう。それが、裁判です。

タカさんが言っていること

タカさんの言う、2,400万円ぐらいとは、どこから出てきた金額でしょうか。

ニュースによれば、
・お医者さん代
逸失利益(いっしつ りえき)
慰謝料(いしゃりょう)
弁護士費用(べんごし ひよう)
を計算したら、出てきた金額だそうです。

それぞれの金額を書いていないのは、わざとです。
このページは、金額が高いか?安いか? を考えるページではないからです。

これ、何のこっちゃ? という人のために、お勉強する。
それが、このページです。

③ 逸失利益(いっしつりえき)とは?

ケガをしなかったら、もらえたはずの財産です。
仕事を休んだ分の給料は、もちろん、もらえます。

「もらえたはずのお金」と書かずに「財産」と書いたのは、財産は、お金とは限らないからです。

「誕生日パーティーをしてもらえるはずだったのに、中止になった」とか、
「コンサートに行って、とても良い気分になるはずだったのに、行けなかった」
とかの、心の財産も含まれます。

ただし、心の財産の金額は、はっきり言って、とても安いです
コンサートの話を、金額で計算したら、もらえるお金は、コンサート代ぐらいでしょう。
1万円のコンサートなら、受ける利益も1万円分、と考えるからです。

「私にとっては、100万円払ってでも、行きたいコンサートなんだ!」
とか、そういうことは、残念ながら、法律では認められないと思います。

タカさんは、
「逸失利益を、あれこれ計算したら、この金額になった。」
と言っています。

しかし、ハルさんは、
「仕事を休むほど、大きなケガだったのか?
お医者さんは、そんなこと言ってなかったような。」
と思い、逸失利益はない、と考えているようです。

(ハルさんの気持ちは、ハッキリ報道されていないので、わかりませんが、逸失利益を計算すると、ハルさんの言う50万円は、すぐに超えると思います。)

④-1 慰謝料(いしゃりょう)

よく聞く言葉ですが、法律に書いてある言葉では、ありません。
法律には「体や物、これ以外のものも、傷つけたら、お金を払えよ」と書いていて(こんなカンタンな書き方は、していませんが)、つまり、心の傷に対する、ごめんなさい代です。

この、慰謝料の計算が、もっとも難しいのです。
お医者さん代は、お医者さんに払ったお金で計算できます。
物が壊れた場合は、同じ物を買ったら、何円か?という計算ができます。
しかし、心の傷は、「めっちゃショック」「かなりツラい」などの、言葉でしか表わせないので、計算は無理です。

そこで、過去の裁判の決定から、今、裁判している内容と、よく似た決定を探し出して、考えるしか、ありません。

すると、おそらく、慰謝料は、みなさんが思っていることと、大きく違うと思います。

④-2 慰謝料は、そう簡単に、もらえない(1)

まず、物を壊された、傷つけられた、という場合、慰謝料をもらうのは、ほとんど無理、と思ってください。
なぜならば、過去の裁判で、「物は、弁償すれば、それでよい。」と、決定しているからです。

たとえば、日本の法律は、動物の権利を決めていないので、ペットも、物と考えるしかありません。
ペットがケガをしても、物が壊れた、と考えられ、新しく買ったら○○円でしょ? という決定になります。

他には、古い物でも、とても思い出のある物や、二度と買えない物もありますが、法律では、中古価格で○円、としか、考えられません。

しかし最近は、この決定が「いくら何でも、ひどすぎる!」と問題になっています。

そこで、最近の裁判では、ペットや、親の形見など、人間と同じように、特別に大事にしている物については、慰謝料がもらえる、という決定が増えています。
ただし、
「人間と同じぐらい特別」と証明しなければ、認められません。

物が壊れたときに、慰謝料を期待するのは、やめた方がよいです。

④-3 慰謝料は、そう簡単に、もらえない(2)

体をケガしたり、人が亡くなったときには、慰謝料がもらえる、と考えてよいです。
ただし、何百万円や何千万円を期待しては、いけません。

テレビなどでは、何千万円払いなさい、という裁判のニュースを見たりします。
あれは、亡くなったり、体が不自由になったりして、一生、普通の生活に困る(亡くなった場合は、もう生活できない)から、金額が高いのです。

また、夫婦の間で、浮気や暴力があり、離婚したとき、慰謝料何百万円、という例が、多くあります。
これも、一生、一緒のはずだった結婚生活が壊されて、今までのような普通の生活に戻るには、かなり苦労するから、金額が高いのです。

みなさん、お気づきでしょうが、「普通の生活」「一生」という、キーワードがあるから、慰謝料がとても高いのです。

タカさんは、慰謝料を○百万円と計算し、ハルさんは、○十万円と計算したそうです。
過去の裁判の決定があるのに、なぜ、こんなに計算が違うの? というと、お相撲さんの普通の生活とは、何ぞや? という過去の裁判が、ないからです。

とんでもない力で相手を倒すことが仕事なら、お相撲さんには、それが普通の生活、とも言えますし、メシ食って、風呂入って、寝ることが、普通の生活とも言えます。

メシ食って、風呂入って、寝ること、つまり、特別な仕事をしていない、多くの人の普通の生活が、お相撲さんにとっても、普通の生活だとしたら、ハルさんの言う何○十万円は、慰謝料として普通です。

何が言いたいか、わかりますか?
特別な仕事をしていない、多くの人の普通の生活が、数ケ月壊された、という場合、慰謝料は何○十万円だろう、と言いたいのです。

④-4 なぜ、慰謝料をもらうのは、難しいのか?

慰謝料は、計算ができないので、「とてもショック」と言えば、もらえるのなら、簡単に悪用できるからです。

最近は、あまり聞きませんが、昔は、コワ~い人の車を傷つけたり、道でぶつかったりしたら、「慰謝料○百万円払え!」と、おどされた、なんて話を、よく聞きました。
(いや、私の身近で、そんなことがよくあったわけでは、ありません。
そんな話が、テレビドラマや漫画などにも、よく使われていたんです。)

車を傷つけた方が悪い!

ぶつかった方が悪い!
悪かったら、慰謝料!
そりゃないよ~、と言えない、こんな世の中じゃ、ポイズン。

慰謝料という言葉だけが、何百万円という金額だけが、テレビやインターネットで広がっているように思います。
それは、ニュースになるのは、大きな事件だけだからです。

タカさんとハルさんの話は、有名人だからニュースになりましたが、殺人事件などの、大きな事件ではありません。
ニュースの大きさと、事件の大きさを、一緒にしては、いけません。


悪いことをしたのはハルさんだから、何百万円、払ってやれよ、という気持ちは、よくわかります。
しかし、法律的に、冷静に考えてください。
きちんとした計算もなしに、何百万円、何千万円という、とんでもない金額を払えと言われる。
これは、異常です。

⑤ 弁護士費用(べんごし ひよう)

説明の必要がないと思いますが、弁護士さんに払うお金です。

ということを、言いたいのではなくて、タカさんのニュースで、弁護士費用220万円ぐらい、というのを見て、「え!弁護士って、そんなに高いの!?」と思った人は、いませんか?

弁護士さんに払うお金は、「裁判で求める金額の、何パーセント」としている弁護士さんが多いです。
タカさんは、2,400万円も求めたから、弁護士費用も、大きくなっただけです。

求める金額が10分の1なら、弁護士費用も10分の1になるはずですから、ご安心を。

だから、「悪いことをされて、気分が悪い!」という気持ちだけで、求める金額をつり上げると、裁判で認められない上に、弁護士さんに払うお金が高すぎる、というダブルパンチが待っています。
冷静に。冷静に。

⑥ 裁判は、勝負ではない。

ここまで、「裁判に勝つ、負ける」という言葉を使っていないこと、気付きました?

裁判はゲームではありません。

裁判の決定によって、
「自分が思っていたことと、法律が、同じだったか? ちょっと違ったか? 全然違ったか?」
という結果は出ます。
しかし、これ、テストじゃないんですから、どちらが上とか下とか、ありません。

だから、勝ち負けも、ありません。

だから、私は、裁判に勝つ・負ける、という言葉がキライです。

タカさんとハルさんの裁判も、もし、ハルさんの意見が認められたら、みなさん「なぜ、悪い方が、勝つんだ!?」と思うでしょ?

ちがいますよ。
勝ったんじゃなくて、この話は、ハルさんの方が正しかった、というだけです。
ハルさんが正しかったからと言って、タカさんが悪いというわけでもないし、ハルさんが刑事裁判で「悪い」と言われたことが、この裁判で悪くなくなるのでも、ありません。

⑦ 裁判所は、法律を変える権利はない。

加害者に有利な決定がされると、
「裁判所は、普通の人の感情がわかっていない! お役所仕事だ!」
という人がいますよね。
これも、まちがっています。

裁判には、感情を入れてはいけないのです。
裁判所は、今の法律で考えると、これが正しい、という、お役所仕事をする場所です。
そこに感情を入れると、法律は平等という、もっと基本的な部分が、壊れます。

法律を超えた、一般人の感情も入れた方がいいんじゃないか? と言って作られた「裁判員制度(さいばんいん せいど)」(裁判所以外の人が、裁判に参加して、意見を言うこと)は、刑事裁判の話です。民事裁判では、ありません。

もし、とってもおかしな決定がされたとしたら、それは裁判所が悪いのではなく、法律が悪いのです。

裁判所に、法律を作ったり、変えたりする権利は、ありません。
法律を作ったり、変えたりする権利があるのは、国会です。
法律が悪い、と言うのなら、その文句は、国会議員さんに言うことです。

まとめ

① 刑事裁判と民事裁判があり、2つは全然ちがう。
② 民事裁判に「被害者・加害者」は、ない。
③ 逸失利益には、心の財産も含まれるが、期待はできない。
④ 慰謝料が一番難しい。慰謝料を目当てに裁判するのは、どうでしょう。
⑤ 弁護士さんは、ボッタクリではないですよ。
⑥ 民事裁判は、勝ち負けではない。良い悪いの話とは、関係ない。
⑦ 選挙に行こう。

H30.10.31追記 裁判するのを、やめた。

ニュースによれば、タカさん・ハルさんの生まれた国であるモンゴルでは、「タカさんがおかしい!」という声が、とても多いそうです。

タカさんが、裁判までしようとしたことと、タカさんがハルさんに「払ってよ」と言った金額が高すぎて、モンゴルでは「タカさんが悪い!」と、なってしまったようです。

その意見は、タカさんだけではなく、モンゴルに住む、タカさんの家族にも言われており、タカさんの家族が、
「悪く言われ続けて、ガマンできない!」
とタカさんに言って、タカさんは、裁判をやめたそうです。


裁判することが良いこと、ではないので、裁判をやめたことが良いとも悪いとも、何とも言えません。

そして、裁判をやめたからといって、タカさんがハルさんに「お金を払ってよ」と言えなくなったわけでは、ありません。

タカさんが「金額を少なくするから、払ってよ」と言うとか、
ハルさんが「50万円より高く払うから、もう許してよ」と言うとか、
これからも、2人で、いくらでも話し合えるので、お互いが納得できる結果が出るといいですね。

日本では「ケガをさせたハルさんが、全部悪い!」
という意見が多く、
モンゴルでは「タカさんは言い過ぎだ! ハルさんを許してあげろ!」
という意見が多いようです。

これらの意見について、ここまでに書いたことの復習として、法律的に考えます。

民事裁判は「良い・悪い」ではない。「良い・悪い」は刑事裁判の話。
・裁判をやめたからといって、タカさんの負けでも、ハルさんが勝ちでもない。
裁判所で話し合って、国の決定をもらうのを、やめただけ。
・未成年でなければ、家族は関係ない。
家族に文句を言うのは、全然関係ない、知らない人に文句を言うのと同じです。
それ、ほとんど犯罪ですよ。

「ハルさんは引退相撲をして、いい思いをしたくせに!」
という意見を、よく見かけますが、
これも、全然関係ありません。

タカさんにケガをさせたから、ハルさんが引退相撲をできた、のではありません。
(横綱だから、できたのです。
**そして、横綱になったのも、タカさんのおかげ、ではありません)


色んな考え方があって、色んな意見を言うこと・聞くことは、大事です。
でも、関係ない話や、関係ない人を出してくるのは、よくないです。

それじゃ、ただの悪口ですよ。

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